「その日のまえに」の”その日”とは、そう、最期の日のことだ。
裏表紙の紹介文は
僕たちは「その日」に向かって生きてきた。昨日までの、そして、明日からも続くはずの毎日を不意に断ち切る家族の死。消えゆく命を前にして、いったい何ができるのだろうか・・・。死にゆく妻を静かに見送る父と子らを中心に、それぞれのなかにある生と死、そして日常のなかにある幸せの意味を見つめる連作短編集。
この3年近く時代小説を読んできたきっかけは、現実逃避に最適だからだった。頭の中は江戸時代や戦国時代にタイムスリップして、現実を忘れてのめり込める。そうすることで、亡くした夫のこと、自責に苦しんだりする時間を作らないようにできた、私にとって時代小説が薬のようなものだった。だから、この手の本を読めるようになったことに自分でも驚いている。
新型コロナウイルスのパンデミック初期、志村けんさんが亡くなられて日本中が大きな衝撃を受けて、震撼とした世の中になった最中に置いてけぼりにされ、私はひとりぽっちになった。
大切な人の死を経験して、残されたものの喪失感がどのようなものかは、経験した人にしかわからない。悲嘆回復の研究治療に何度か通ったけれどダメだった。毎日毎日、涙が止まらなくて、何かをしていないと勝手に涙があふれてしまうという日々が2年半続いた。古い友人が心配して声をかけてくれても心を閉ざして、とてもとても不義理をしていた。今思うと、完全にこころが病んでいたと思う。
4年目の今は、景色がカラーになって、やりたいことや行きたいところができている。
重松清さんの「その日のまえに」の、連作後半の「その日のまえに」「その日」「その日のあとで」は、涙なしでは読めないお話です。泣けて泣けて、久しぶりに枕を濡らしたけれど、あの泣き暮らしていた2年半の涙とは違っていた。
「また、誰かを愛してもいいですか・・・」
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