新たに、時代小説作家さんを探してたどり着いたのが、山本兼一さん。
最初に選んだ作品が、第140回直木賞受賞作、「利休にたずねよ」。
PHP文芸文庫紹介文
女のものと思われる緑釉の香合を肌身離さず持つ男・千利休は、おのれの美学だけで時の権力者・秀吉に対峙し、天下一の茶頭(茶の湯をもって主君に仕える人)へと昇り詰めいていく。しかし利休の研ぎ澄まされた感性、艶やかで気迫に満ちた人生を生み出した恋とは、どのようなものだったのか。思いがけない手法で利休伝説のベールが剝がされていく。
元は魚屋に生まれ、武士ではない利休が、なぜ秀吉から理不尽な切腹を命じられたのか。
そして、秀吉も本意ではなく、謝ることで許されたにも関わらず、切腹を選んだ千利休。
物語は、利休切腹の日から過去へ遡り、千利休の人生の謎を解き明かしていく。
思いのほか、面白かった。
茶道は経験もなく、知らないことが多いだけに興味しんしんで読めた。
茶室ひとつだけでも、あの小さい入り口のくぐり戸を、千利休が考案していることを知らなかった。
千利休が生きた戦国時代は、主従関係が強い時代、茶室の中ではすべての人が平等ということを示すために入り口を低くしている。どんなに身分が高い人でも、刀を外し頭を下げなくては茶室に入ることができない。
争いの絶えなかった戦国時代、織田信長も豊臣秀吉も、お茶をこよなく愛していたという。密談に丁度良いということ、疲れた心がホッとできただろう。
作中、徳川家康が秀吉から直々に招かれ、利休の茶室での振る舞いを受けて感じたのが以下。
ひたすら閑雅をきわめ、障子に射す朝の光さえ凛として神々しいのに、こころの根をゆるりと蕩かす心地よさがある。ずっと背負ってきた重い荷物を、ここで一度おろしてもいいような気にさせてくれる。(中略)ここまで洗練されて落ち着く席は初めてである。
このあと、家康が秀吉に忍従を強いられ、屈辱も甘んじて受け入れているのは、自分がいずれ天下を・・という、気になる家康と秀吉の関係性も垣間見れる。
ちなみに、利休が手掛けたという唯一の現存茶室は、山崎の合戦の際に、豊臣秀吉の命でつくったと伝わる茶室「待庵(たいあん)」。
日本にある多くの茶室の中で、国宝に指定されているのはたった3つで、そのひとつが「待庵(たいあん)」だそうだ。
利休切腹後に、茶室は破却されたがひそかに解体保存され、後に利休と縁があった妙喜庵に再建されたようです。
そして、解説は宮部みゆきさんで、べた褒めでした。
池波正太郎作品が残り少なくなってきたので、また読める作家さんができて一安心。
本はこころの拠り所だ。
物語の世界に没入している時間だけは、現実の痛みや悲しみを忘れられる。
パートナーのない自分は、本があるから、誤ったことに依存したりすることなく暮らせているような気がする。
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