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時代小説に夢中

沢木耕太郎「春に散る」を読んで、ボクシングが苦手ではなくなっていく

ネット上で、佐藤浩市×横浜流星W主演で映画化「春に散る」と言う記事をみつけた。

「春に散る」の公式サイトをのぞいてみると、好きな山口智子も出演する。

佐藤浩市のコメント、「生き様があっても生き方が見えない漢たちが、自身のこれからと最後を賭けて同じ船に乗る。」も良かった。

 

そして、山口智子のコメント。

ボクシングについて全く無知であった私は、まず沢木耕太郎さんの小説を開きました。一気に引き込まれて、あっという間に読み切りました。「ボクシングは荒々しい男の世界」というそれまでの思い込みは、清々しい力に満ちた一陣の風にすっかり吹き飛ばされ、「どう生き切るか」という、命ある者全てへの問いかけに、自分も挑み直してみたいという思いが湧き上がってきました。「今」というこの瞬間に、熱く、濃く、己の心に偽りなく、力を注げるか。

 

このコメントを読んで、「春に散る」をどうしても読みたくなった。

およそ2年ぶりに、時代小説以外を読んだことになる。

 

ちなみに、以前も書いたけれど、終活をした自分としては、今回も図書館で予約をしていた。

ところが、12月に予約をして手元に来たのは2か月後だった。

「春に散る」は、朝日新聞での連載時から大きな話題を呼んだ傑作小説と言うことと、映画化と言うことで人気なのかもしれない。

 

【あらすじ】

主人公の広岡は、かつてボクシング世界チャンプを目指していたが、不公平な判定負けで挫折しアメリカへ渡米。40年ぶりにアメリカから帰国し、同じ時をジムで過ごした仲間たちと再会し、やがて4人で共同生活を送ることになる。

四天王と呼ばれ、全員が期待されつつも世界チャンピオンになれなかった4人は、引退後の人生をうまく生きられていなかった。

その4人が、若いボクサー黒木翔吾と出会い、それぞれの思いを託し、技術を教え込んでいく。

 

ボクシングは人を殴り合うだけで、本当に意味が分からなくて野蛮でとても苦手だった。

 

後半の盛り上がり、世界タイトル次期挑戦者決定戦のボクシングシーン。

4人の元ボクサーが付ききりで教え込んだ黒木の試合は、映像が浮かび、黒木を応援している自分がいて、とても感動的だった。

【ネタバレ】

試合前半は互角で戦えていたが、1年のブランクのあった黒木は、後半は打たれ続け、教えられた技を出すこともできなかった。とうとう棒立ちになり、連打を浴び続け、誰もが終わりだと思っていた。相手が初めて足を止め、距離を縮め、とどめの右フックを放った.....黒木はこの一瞬を待っていた。すっと体を沈め、完璧なボディフック。4人に教え込まれた技のひとつだった。大逆転のKO勝ち。

 

そして、単なるボクシング小説ではない。

人生の終盤を迎え希望を見いだせず、「俺は生きているか?死んでないだけじゃないか?」と自身に問いかける男たちの生きざまがベースにある。

これから先、実際にボクシングの試合を観るかはわからないけれど、偏見のようなものは消えて、スポーツだと認識できるようになった。

初の作家さんであったが、読みやすく読後感は清々しい。

 

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