今回「邂逅の森」もブロガーさんの影響で手に取ってみた一冊。
この数年は自分に読む体力というか、気力と言うものが失われていたため、小説らしい本は読めていなかった。
先日の「火花」と一緒に古本屋で買い求めたが、実は「邂逅の森」は手に取ってみると厚かったので躊躇した。今の自分に、これだけの本が読み切れるのか?(いま測ってみたら2cmあった)
やめておこうかと考えながら、裏表紙を見た瞬間に買うことを決めた。
なんと、解説が田辺聖子さん。
読む運命だ。
ほとんどを読んでしまった私にとって、田辺聖子さんの文章を新たに読める発見に嬉しくて仕方がない。
田辺聖子さんの解説は、次のようにあった。
私は、人生の終わりちかく、幸運にも、それらと、文字通り「邂逅」した。
本書の「邂逅の森」にめぐりあえて、よかった。私はこの小説によって、親愛なる狩人、マタギたちの人生や、東北の地の雪、氷、嵐、アオシシ(ニホンカモシカ)や熊の体臭、咆哮を、身近に感ずることができた。
書物(ほん)は尊むべきかな。
活字の伝えるいのちの何という威力(ちから)。
これは一部であるが、もうこれだけで十分に読みたくなるでしょうし、私が感想を述べるまでもない。
<紹介文>
秋田の貧しい小作農に生まれた富治は、伝統のマタギを生業とし、獣を狩る喜びを知るが、地主の一人娘と恋に落ち、村を追われる。鉱山で働くものの山と狩猟への思いは断ち切れず、再びマタギとして生きる。失われつつある日本の風土を克明に描いて、直木賞、山本周五郎賞を史上初めてダブル受賞した感動巨編。
読み進めると、 2cmの厚さは一切感じられず読めてしまった。
「邂逅の森」はマタギとして生きる、松橋富治の一生であるが、そこには大自然と、獣の世界がある。富治のように厳しい地に生まれ、生きるために代々マタギを生業にするしかないマタギ。
マタギとは、熊を狩る人だと思っていたが、熊に限らず、アオシシ(ニホンカモシカ)、オコジョ、テン、タヌキなど小動物まで食べていくために狩っていた。山間部の農地も持てない者は、山の恵みでマタギを育ててきた。獣の肉を乾燥させて、厳しい冬を越すのである。
特にアオシシは肉が旨く、毛皮としてこれ以上のものはなく重宝された。
しかし、第一次世界大戦の勃発により、日本は毛皮の輸出国となり、日本軍のシベリア出兵で、軍部は毛皮収集に乗り出し毛皮価格が高騰。
マタギではないものがこぞって山へと繰り出すようになる。
本物のマタギは、必要以上の獲物は獲らないという山の掟を守り、山の神様のたたりを恐れさまざまな祈りをしている。
ニホンカモシカをアオシシと聞いて、思い出したのが「もののけ姫」のシシ神さま。シシ神さまも、ニホンカモシカがモデルのようです。
富治はマタギの辞め時に悩み、ラストは山の主である化け物のような熊と死闘を繰り広げる。
大自然と、獣。
人間との共存のバランスの難しさ。
私の中では完全に、「もののけ姫」の世界が蘇ってきてしまった。
最近ではエサを求めて、熊が人の暮らす場所へ降りてきているニュースを良く聞く。
ちなみに、最後のマタギは佐藤良蔵氏。
2009年(平成21年)春、二連発銃を地元北秋田警察署に返納し、200年続いた伝統的な狩猟文化は姿を消した。
秋田の方言が良く、異世界のマタギの暮らしはとても興味深く面白かった。
念のため、R指定です。
2021/3/7追記
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